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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)266号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。

1 成立に争いない甲第二号証(本願意匠の意匠登録願書)によれば、本願意匠は、意匠に係る物品を建築物の壁面用柱材あるいは屋根面等の垂木として用いられる「型材」とする、別紙一に示されている形態のものであつて、その基本的構成態様は、細長い中空の部材の長手方向の底面を解放し、長手と直角方向の断面(以下、単に「断面」という。)を、「凸」の字の下辺を解放した形状とし、両垂壁の下端から外側へ直角に延設した部分(いわゆる「下段フランジ部」)を有するものであると認められる。

ところで、成立に争いない甲第四号証(昭和六一年意匠登録第六九二八二五号公報)及び第五号証(昭和六二年意匠登録第七〇三四二九号公報)によれば、この種の型材は、亜鉛鉄板あるいはアルミのように強度を有する金属板によつて一体的に形成され、建築物の外装の基礎部材として用いられるものであつて、(解放した底面側が基材に接する形で)長手と直角方向に間隔を置いて複数本を基材に固定し、隣り合う型材の垂壁に設けられた段部(いわゆる「上段フランジ部」)の間に、耐火板材、遮音板材あるいは吸音板材等を挟持した後、上面全体を別に部材(例えば、屋根板)で覆つて、建築構造の断熱、遮音あるいは吸音の機能を向上させるための部材であると認められる。

したがつて、本願意匠の前記基本的構成態様のうちの断面の形状、すなわち、部材の長手方向の底面を解放すると共に、「凸」の字のように両垂壁の外側に段を設け、かつ、両垂壁の下端から外側へ下段フランジ部を設ける形状は、意匠に係る物品である「型材」の用途から必然的に重視、注目される形状であつて、もとより本願意匠の要部をなすものである(ちなみに、審決は、下段フランジ部は本願意匠における基本的構成態様ではないと判断しているが、型材は基材上に固定されなければ遮音板材等を挟持する用をなさないことが明らかであるところ、下段フランジ部は、型材をネジ止め等の方法によつて基材上に固定するために当然に要求されるものであるから、下段フランジ部も本願意匠の基本的構成態様をなすと考えるべきである。)。

2 一方、成立に争いない甲第三号証(引用意匠の意匠登録願書)によれば、引用意匠は、意匠に係る物品を本願意匠と同じく「型材」とする、別紙二に示されている形態のものであつて、その基本的構成態様は、細長い中空の部材の長手方向の底面を解放し、長手と直角方向の断面(以下、単に「断面」という。)の形状を、「凸」の字の下辺を解放して両垂壁の下端から外側へいわゆる下段フランジ部を延設することによつて構成されていると認められる。

なお、同号証によれば、引用意匠に係る物品である「型材」は、(解放した底面側が基材に接する形で)長手と直角方向に間隔を置いて複数本を基材に固定し、隣り合う型材の上段フランジ部の間に(弾性パツキング5を介して)採光パネル2を挟持するための受枠である(なお、採光パネル2の端部(したがつて、型材の上段部上面)は、キヤツプ3によつて覆われる)ことが認められる。

したがつて、引用意匠の右の基本的構成態様のうちの断面形状も、意匠に係る物品である「型材」の用途から必然的に重視、注目される形状であつて、引用意匠の要部をなすものである。

3 そうすると、本願意匠と引用意匠は、意匠に係る物品が基本的に共通の用途を有する建築物の基礎部材であり、かつ、意匠の要部をなす断面の基本的構成態様をも共通にするということができる。

4 ところで、本願意匠及び引用意匠に係る物品である「型材」は、建築の基礎部材であつて、前記の各用途から明らかなように、建築工事が終了した後は上面を別の部材によつて覆われて全く人目に触れないものであるから、需要者である建築工事者は、殊に、建築工事に際しての利便を考慮しつつ物品を観察するものと考えるのが相当である。

そのような視点に立つてみると、需要者である建築工事者は、物品の用途から必然的に重視、注目される前記基本的構成態様はもとよりであるが、それにもまして、各意匠の断面形状における具体的構成態様、すなわち、

イ 型材を基材に固定する機能を果たす、下段フランジ部の幅ないし形状は適切か(審決認定の相違点<3>)

ロ 遮音板材等を挟持する機能を果たす、上段フランジ部の幅は適切か(審決認定の相違点<2>)

ハ 挟持される遮音板材等の厚みとの関係で、上段部の高さは適切か(原告主張の相違点a、b)

ニ 複数の遮音板材等の仕切りを形成する、上段部上面の幅は適切か(審決認定の相違点<1>)

ホ 挟持された遮音板材等と基材との間の空間の大きさを決定する、下段部の高さは適切か(原告主張の相違点a、b)

の諸点にも深い関心を注ぐのが通常であるというべきである。

そうすると、審決認定の断面形状における具体的構成態様の差異点<1>ないし<3>、並びに、原告主張の差異点a及びb(右a及びbは、共に、断面形状における具体的構成態様の差異点にほかならない。)は、審決がいうように「ありふれた態様の範疇に含まれ、看者の注意を引くような特徴的なものとは認められない」、あるいは「極めて軽微な部分的相違にすぎず、類否判断の要素となり得るものとは認められない」ということはできず、いずれも、本願意匠あるいは引用意匠の要部となり得るものであると考えなければならない。

5 そこで、本願意匠と引用意匠の断面形状における具体的構成態様の類否を検討するに、前掲甲第二号証によれば、本願意匠の断面形状は、上段部の高さ及び下段部の高さがおおむね同一で、上段部上面の幅もかなり広いのに対し、下段フランジ部及び上段フランジ部の幅が相対的に狭く、いわば、正方形の上に、その辺のほぼ半分の幅を有する縦長の方形を載せたような形状であるため、各角部に丸味をつけていないこととあいまつて、シヤープではあるが縦長の、やや不安定な印象を与え、また、型材を基材に固定する際の利便はさほど感じられない態様ということができる。

これに対し、引用意匠の断面形状は、前掲甲第三号証によれば、下段部の高さが相対的に高いほかは、上段部の高さ、上段部上面の幅、下段フランジ部及び上段フランジ部の幅がおおむね同一であつて、いわば、横長の方形の上に、その上辺のほぼ三分の一の辺の正方形を載せたような形状であるため、各角部に丸味をつけていることとあいまつて、滑らかな横長の、安定した印象を与え、また、下段フランジ部が相応の長さを有することによつて、型材を基材に固定する際の利便も感じられる態様ということができる。

なお、本願意匠は、別紙一の使用状態の参考図に示されているように、隣り合う型材の下部フランジ部の間にも遮音板材等を挟持すれば、中空部分の両側を遮音板材等とし遮音機能をより向上させる構造にもなし得ると認められる。一方、引用意匠は、下部フランジ部の先端が上方へ起立しているために、隣り合う下段フランジ部の間に採光パネルを挟持することは、不可能でないにせよ極めて不自然な形になることが明らかである。したがつて、所望の建築構造によつては、下部フランジ部の先端の構造が、需要者である建築工事者の注意を強く引くことがあり得ると考えられる。

6 以上のとおりであるから、本願意匠と引用意匠の断面形状における具体的構成態様の差異は、共通する基本的構成態様に埋没する程度のものとはいい難い。そして、断面形状における具体的構成態様の各差異点は、それらが集合することによつて、本願意匠と引用意匠に全体として別異の美感をもたらしているというべきであつて、需要者である建築工事者が、本願意匠と引用意匠を彼此混同することがあり得るような類似の意匠と考えるとは到底認めることができない。

7 そうすると、審決は、本願意匠と引用意匠の断面形状における具体的構成態様の共通点の認定及び差異点の判断をいずれも誤り、かつ、差異点を看過した結果、本願意匠と引用意匠は類似する意匠であると誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五五年一一月五日、意匠に係る物品を「型材」とし、別紙一に示されている形態から成る意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五五年意匠登録願第四六〇二七号)をしたが、昭和六一年七月二四日拒絶査定を受けたので、同年一〇月一四日査定不服の審判を請求し、昭和六一年審判第二〇五二八号事件として審理された結果、平成元年九月二一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年一一月二二日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本願意匠の形態は別紙一に示されているとおりであり、右意匠に係る物品は「型材」、すなわち、建築物の壁面用柱部又は屋根面の「垂木」として用いられるものであると認められる。

2 これに対し、昭和五一年七月三〇日に意匠登録出願された昭和五一年意匠登録願第二九九三四号意匠(ただし、昭和五四年八月三一日付け拒絶査定がその後に確定)は、意匠に係る物品を天窓における採光パネルの受枠として用いられる「型材」とし、別紙二に示されている形態から成る意匠(以下「引用意匠」という。)と認められる。

3 本願意匠と引用意匠を対比すると、両意匠に係る物品は、屋根板を支承する屋根面の小屋組用部材である点において、用途が共通すると認められる。

そして、両意匠は、基本的構成態様、すなわち、

「一定の断面形状で長手方向に連続し、右断面形状が、四角筒状である下段部の上方中央に、同じく四角筒状の、やや幅狭でやや低い上段部を載せ、内側には仕切りを設けず、全体を薄い板材によつて一体に形成する」

点において共通し、

「断面形状において、下段部の左右下端に、下段部垂壁から直角に屈曲させた短いフランジ部を有する」

との具体的構成態様においても共通する。

しかしながら、両意匠は、左記のように四点の具体的構成態様において差異点が認められる。

<1> 下段部の幅に対する上段部上面の幅

本願意匠が比較的広いのに対し、引用意匠は比較的狭い。

<2> 下段部の幅に対する上段フランジ部の幅

本願意匠が比較的狭いのに対し、引用意匠は比較的広い。

<3> 下段フランジ部の先端

引用意匠がわずかに上方へ屈曲させた起立部分を有するのに対し、本願意匠はそのような起立部分を有しない。

<4> 上段部及び下段部の各角部

本願意匠が直角に屈曲させているのに対し、引用意匠は小さな丸面状としている。

4 そこで両意匠の類否を検討するに、具体的構成態様における差異点<1>及び<2>は、それらの点のみに注視して対比すれば差異点として識別し得るが、両意匠に係る物品の用途ないし使用態様を参酌して考察すれば、段部におけるこの程度の比率の差は、いずれもありふれた態様の範疇に含まれ、看者の注意を引くような特徴的なものとは認められない。すなわち、両意匠に係る物品は、いずれもその上段フランジ部に屋根板材の一端を載せて屋根板材を敷設するために用いるものであるが、垂木、母屋あるいは桁などの小屋組材を切り欠いて段部を形成する場合、切欠き段部の寸法(高さ、幅)は、具体的な使用状態に応じて適宜に決定される事項であつて、そのような技術は、柱材あるいは床材の継手法(段継ぎ、相欠きなど)として従来から慣用されているものである。

また、具体的構成態様における差異点<3>及び<4>は、各意匠の形態全体の中においてそれらを観察すると、いずれも極めて軽微な部分的相違にすぎず、類否判断の要素となり得るものとは認められない。

半面、両意匠に共通する基本的構成態様は、各意匠の基調をなして特徴を表していると認められ、看者は、このような基本的構成態様を有する両意匠の共通性を、十分に認識し得ると考えられる。

以上のとおり、意匠に係る物品が共通することと併せて、両意匠の共通点及び差異点を総合して考察すると、両意匠は、その特徴を表している基本的構成態様が、細部における具体的構成態様における差異点を凌駕し、共通する美感を生じさせるから、類似する意匠であるといわざるを得ない。

5 よつて、本願意匠は、意匠法第九条第一項の規定により、意匠登録を受けることができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙一 本願意匠

説明

左側面図は右側面図と、背面図は正面図と、夫々同一のため省略する。この物品は正面図において左右にのみ連続する。

<省略>

別紙二 引用意匠

説明

背面図は正面図と左側面図は右側面図と同一にあらわれる。

側面図は左右のみ連続する。

<省略>

<省略>

別紙参考図

<省略>

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